J・ソペーニャ『スペイン フランコの40年』

スペイン―フランコの四〇年 (講談社現代新書 479)

スペイン―フランコの四〇年 (講談社現代新書 479)

1977年刊。2012年読了。

ものすごく古い本だが、スペイン20世紀の歴史を丁寧にまとめていて、ものすごくためになった。新書でこの濃度は衝撃的。いまどきの「ぱっと短時間で作りました」的な新書とは全く濃度が違う。

世界史の教科書だと、大航海時代のあと、スペインはあまり取り上げられない。完全にヨーロッパの後進地域となってしまう。そのあと、スペインはどうなったのか。<16世紀後半、スペインの衰退は明らかとなった。17世紀に入ると、その傾向はますます顕著になると同時に、それまでの政策への批判が現われ、18世紀には啓蒙主義者と伝統主義者の対立となって表面化した。こうした数世紀におよぶ根深い歴史的傷痕は、19世紀に入るや、スペインの精神的統一を破るほどに拡大し、自由主義者と伝統主義者、自由主義者と守旧派カルリスタ(※王党派)などの対立となったのである。> (p. 13)

そういう5世紀に亘るこの対立が20世紀前半に、収束に向かっていくのだが、その足取りはものすごく慌ただしい。1923年、プリモ・デ・リベラ将軍による軍事独裁政権誕生。これは「まさに王政をたて直しつつ、諸政治党派に左右されずに、スペインの共存を固めるためのものであった」ということであるが、政治的には失敗して、1931年に共和制が採られることになった。共和制下の政府には、これまで排除されていた社会主義者も巻き込んで、軍隊、国家-教会関係の改革、農業改革を推し進めるが、これも政治党派間の争いによって挫折する。そこで、内戦が勃発する。<たぶん、現代スペインの中心問題は、いぜんとして統一を実現しようとして、できなかった自由主義的ブルジョア革命の問題であろう。ヨーロッパ世界はこの歴史的段階を成し遂げたのにスペインはそのふちにとどまっていた。19世紀末以来、スペインのブルジョアジーは、経済的には弱いにもかかわらずやみくもにブルジョア革命を試みたが、けっきょく解決のメドさえたてることができなかった。この問題が未解決のまま20世紀を迎えてしまった。> (p. 29)

という事情が背景にある。ブルジョア革命の時代が終わって、世の中はプロレタリアート革命を叫ぶ集団が出てきている中、スペインのブルジョアは自由主義を国にもたらそうと努力し、失敗した。

フランコはそういった中で自らの軍隊を率いて、指揮官としての才能を発揮して時の共和国政府軍をうち倒し、独裁政権を樹立していく。フランコの思想は、反共和制、反フリーメーソン(など秘密結社)、反共産主義、として形容されるものであり、内戦中には、イタリア・ドイツと接近し反共協定を結んでいたし、両国から資金援助も受けていた。しかし、これが興味深いところだが、内戦終了後は中立を標榜し、ドイツが参戦を促しても、内戦後の国内の荒廃を原因に断り続けている。ヒトラーとフランコの会談の場面の描写は本書の白眉の一つであろう。内戦以降国際的に孤立し続けていたスペインが国際政治の渦中に最も接近した場面である。

こういう経緯で、結局中立を貫いたスペインのフランコ体制は、国際社会の非難に屈することなく戦後も崩壊することなく、1975年まで続いたのである。結構身近な国なんだけどね、身近な欧州先進国がこういう歴史を歩んでいるっていうことはあまりよく分かっていなかった。

繰り返しになるが、スペインの現代史をよくまとめていてとてもよい本だと思いました。絶版ですけどね。

★★★★☆