NHKスペシャル取材班『日本海軍400時間の証言』

日本海軍400時間の証言―軍令部・参謀たちが語った敗戦

日本海軍400時間の証言―軍令部・参謀たちが語った敗戦

2009年、NHKは戦後日本海軍の中堅将校が集まって続けてきた、「反省会」のテープ400時間をもとに、特番を放送した。本書は、その特番を作成した担当者たちが綴った、番組作成の記録である。
資料のすごさは伝わってくるが、どうも書籍としては中途半端である。「反省会で話されている海軍の失敗を決して過去の事として語らず、現代への教訓を探す。その際、その事を自分たちの問題として語る」という制作姿勢だったそうだ。しかし、そんなことが可能なんだろうか。組織としての腐敗をとりあげて、現代に通じる課題として認識するのは分かるが、そういうことを言ったら、西武ホールディングスの不祥事だって、ナチスの失敗だって、ジンバブエのムガベの失敗だって「自分たちの問題として語る」ことを迫られないだろうか。単に日本人だから、海軍の失敗は特別な語り方ができるのだろうか。そんなことはないと思うのだが。なんだか、そういう立ち位置の設定にナイーブなものを感じる。
本書の白眉は、資料発掘の過程(これはわくわくする)に尽きる。こうやって歴史が発掘されていく、という瞬間に読者は立ち会うことができる。そこで語られているのが醜悪な場面や悲劇的な場面であったとしても、こうして後世の人間が歴史を発掘することで、無駄な死を遂げた兵士たちが(航空特攻の命中率は11.6%、人間魚雷回転の命中率は2%にすぎないという予測が紹介されている – p. 182)少しでも報われるということがあるのかもしれないと思う。