Ian MacEwan, Solar / イアン・マキューアン『ソーラー』

Solar

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出張先の空港で、読むものがなかったので購入。太陽光関係の仕事しているし。いやーすごい小説でした。何しろ、バックカバーの評語がすごい。Financial Times は、”A stunningly accomplished work, possibly his best yet… both funny and serious, light and dark, morally engaged and ironically detached.” だと。そんな小説読んでみたくなるでしょう。

主人公のBeard博士は、昔ノーベル物理学賞をとった科学者という設定で、物語冒頭では、イギリスの国営新エネルギー研究センターの所長をしている。背が低く、小太りで、少し傲慢なところがあるが、しかし、”unaccountably attractive certain beautiful women” という設定。このあたりから、筆者のアイロニカルな筆致が楽しめる。Beardは酒癖と女癖が悪く、何度も離婚を繰り返している。そして、今回のPatriceとの結婚は最悪で、自分の浮気が原因なのだが、Patriceは大工のTarpinと浮気を始めて、それを様々なかたちでBeardに見せつけるようになった。Beardは悩む。それで、気分転換に、招待された北極海見学ツアーに行くことにする。科学者とか活動家を集めて、「ほら氷河が解けている、白クマが減っている」とか言って、温暖化対策を後押しするという企画。しょうもない。がいかにも、ありそう。
ツアーの初日、Beardは目的地近傍の空港に着き、ホテルで。翌朝、一行はホテルから船へとスノーモービルで移動する。外はマイナス26度の厳寒である。スノーモービルで移動中、Beardは、35時間一度も小便に行っていないことに気づく。しかし、厳寒対策で、ものすごい厚着をしている。どうする。どうしようもない。Beardは、一行から逸れて、脇道で立ち小便をする。よかった。しかし、よくなかった。厳寒の中で、Beardのち○こは、ジッパーに張り付いてしまう。しまった!しかし、遅い。刻々と時間が過ぎていき、ち○こは、縮んでいき、しかも白くなっていく。このあたりが細かいのだが、「クリスマスの飾りものの鈴」みたいな白、だそうだ。ここで、Beardは物理学者として気づく。そうだ、ホテルのバーから持ってきたブランデーの小瓶があった。酒飲みバンザイ!ブランデーは凍らない。Beardはブランデーをち○こにかけて、ジッパーから引きはがす。めでたしめでたし。Beardを心配して駆け付けたツアーガイドと合流し、同じスノーモービルに乗って、目的地の船に向かう。ところが、そのスノーモービルの後ろの席にいるとき、Beardのズボンの中で、何か小さくて硬いものが転げ落ちてひざのあたりをごろごろしている。。。Beardはパニックに陥る。そして、船に着く。船で着替えていると、そこに、Beardが気になっているツアー一行中で一番の美女Polkinghorneがやってきて、Beardに気がありそうな会話をする。会話の終わりに、美女が気づく。「あら、あなたのズボンの下のところから、何か小さいものが落ちて来たわよ」。

しょうもない。この先もおもしろいが、このあたりの展開が最高である。全編こんな調子なのだが、Financial Timesの書評通り、ときどきえらくしんみりしているのだ。例えば、こんな箇所。

Polkinghorne’s disembodied smile presided over Beard’s melancholic reflections on the end of his marriage. He experienced a genial blend of sadness, anger, nostalgia (those early months were bliss), and a warm, forgiving sense of failure. (p. 71) 「ピルキントン女史の、想像の笑顔は、結婚生活が終わりつつあるというベアードの追想にまとわりついてきた。彼は、悲しさ、怒り、美しい思い出(最初の数カ月は至福であった)、それと、温かく自己肯定的な敗北感、のないまぜになったぬるい感傷にひたっていた。」

なんかこの、forgiving sense of failure という書き方がすごいと思った。
太陽光はやっているし、どこかで邦訳して映画にでもならないでしょうか。あ、あとの方でちゃんと太陽光の話は出てきます。