酒井啓子『の考え方』

<中東>の考え方 (講談社現代新書)

<中東>の考え方 (講談社現代新書)

中東(イラクが専門)地域研究者の渾身の一冊。あとがきを読むと気合いが入っているのがよく分かる。中東とひとくくりにしても、実はいろいろな国があり、多数の軸がひける。アラブ系/ユダヤ系/ペルシア系、産油国/非産油国、君主国/共和国、シーア派/スンニ派/イスラム少数派(オマーン)/ユダヤ、反米/親米、というのが主な対立軸であるが、ここで陣営が入り乱れるので整理が難しい。さらに、時間をかけて変わっていく要素もある。こういう事象を本書は簡潔ながらもきちんと説明しようとする。例えば、イランに関しては大変興味深い一章が割かれている。イランはもともと中東地域の親米国家代表であったが、現代では最も反米的国家の一つである。その一つの原因は、冷戦時代にソ連の南下を防ぐために、一所懸命に英米が反西側勢力の勢いを削ぎ(油田を国有化しようとしたモサデグ政権をCIAが転覆した)、親米のシャーに政権をとらせていたことなどが影響している。そういう、冷戦構造の残したもろもろの遺物を本書では「冷戦のゴミ」として描写している。びっくりする表現だったが、本書を読むと極めて的確な表現であることが分かる。有名な話だが、ビン・ラディンももともとはアフガニスタンで戦うために、(米国の支援のもと)サウジアラビアで鍛えられた戦士だった。その戦士たちが冷戦が終わった後も残っているというのが現代の世界であって、Hot warだったら戦後処理ということをみんな一所懸命にやったのだろうが、「冷戦」だったのでどちらの陣営も面倒を見ずにいて、あいだにいた中東に迷惑な爆弾的要因が多数残されてしまったということだ。地域の人にとっては大変迷惑な話である。