松尾昌樹『湾岸産油国 - レンティア国家のゆくえ』

湾岸産油国 レンティア国家のゆくえ (講談社選書メチエ)

湾岸産油国 レンティア国家のゆくえ (講談社選書メチエ)

湾岸産油国(UAE、オマーン、カタール、バハレーン、クウェート)の国の成り立ちを描いた一冊。「レンティア国家」というのは、「レント(不就労所得)」に依存する国家ということで、こういう国では過去経済発展に伴って進展するとされた民主化が見られないことから、こういう資源国を分析するコンセプトとして提唱されたもの。

これらの国では日本の常識が全然通用しない。極端な例をあげると、カタールでは外国人・カタール人合計で77万人が働いているが、そのうちカタール人はなんと7万人だけである。外国人がいないと全く経済が成り立たない。さらに、カタール人の就業人口のうち94%が公務員であり、比較的高給を得ている。ちなみにカタールの一人当たり国民所得は日本の3倍程度ある。

これら湾岸君主国では、民主化はされておらず、君主の一族(一人の独裁ではなく、一族での支配)で政治がおこなわれているのだが、一般人民も、上記のように行政権のある公務員に就くことで不満が和らげられるのだそうだ。また、外国人労働者と自国民は基本的に生活上ほとんど接点がなく、従って生活上の不安とか不満のようなものも(少なくとも自国民からは)出ないと。外国人労働者も、家族を置いて単身で来ている人達で、そのうち帰ることが決まっているので、社会変革を求めて立ち上がって、とかいうことはないと。軍隊も意図的に弱くされており、軍部によるクーデタというのも起こり得ない。こういう構造は、普通の民主的経済先進国からみると異常に見えるが、もろもろ分析すると制度としての安定性は強く、われわれは暫くこういう国とつきあっていくことになるだろうというのが著者見解。その国単独で見ると安定しているということはよくかりました。しかし、イラクに攻め込まれたクウェートの例もあるし、国家としての歴史も浅いし、長期の仕事をしようと思うと一抹の不安はあるね。