早野透『田中角栄 - 戦後日本の悲しき自画像』

田中角栄 - 戦後日本の悲しき自画像 (中公新書)

田中角栄 - 戦後日本の悲しき自画像 (中公新書)

最近は戦後の道路行政について大変興味があって、この人についてもやっぱり知らないとなと。
著者は朝日新聞で田中角栄の番記者をやっていた人で、角栄には非常に思い入れがあるそうだ。全体的に見守る目線は温かく、取材対象に関する愛情・愛着を感じるし、実際に人物には相当惹かれるものがあったようだ。彼のとった政策、汚職疑惑についても、もろ手を挙げて賛成するわけではないが、時代の空気からやむを得ないことであったというトーンである。彼は高度成長に取り残される地方の声を代弁していた、と。だから、ロッキードの有罪判決が出たあとも20万票以上を集めて選挙で当選できたのだと(これはすごいことだと思う)。

この本を読むと、確かに角栄という政治家にあった魅力というものがよく分かる。情に篤い。分かりやすい。組織化がうまい。官僚をコントロールできる。今の政治家にないものがたくさんある。政治家に見習ってほしい。見習いたくもある。

政治主導の意図で議員立法をたくさんやったし、高度成長に取り残された地方に活気をもたらすために、利益誘導的な政治も行った。その時代はそれでよかったところもあるのだろうし、角栄がいて裏でその「誘導具合」をコントロールしていた面もあった。というか、角栄にしかコントロールできない仕組み(それは自民党総裁選びにしても利益誘導のやり方にしても)を作ってしまったことが彼の最大の罪であることが本書を読むと分かる。

角栄亡き今、その「後継者たち」、それは自民党の政治家(族議員たち)や予算を握っている官僚たちのことでが、その仕組みを都合よく解釈して、自己保身のために利用している。道路の問題にしても、社会保障の問題にしてもそうだろう。角栄は戦後すぐに当選して、「戦後」を終わらせた。角栄の作った仕組みを終わらせる政治家がそろそろ出てこないとならないのだろう。