吉川洋 『いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ』

1883年同年生まれの二人の大経済学者の履歴や主著の解説。

<ピラミッドはいくつあっても、それがもたらす限界効用は逓減しない。だから古代エジプトは繁栄したのだ。それに対して現代の経済社会では、一つ鉄道が開通すればそれと並行して走るもう一つの鉄道は用なしになってしまう。こうして有効需要不足の問題が生じる。[……]
昔からあるモノやサービスに対する需要は必ず飽和する。このことはシュンペーターも認めた。そこから先がシュンペーターとケインズで違うのである。ケインズは需要不足は与えられた条件だとして政府による政策を考えた。シュンペーターは、需要が飽和したモノやサービスに代わって新しいモノをつくり出すことこと---すなわちイノベーションこそが資本主義経済における企業あるいは企業家の役割なのだと説いた。> (p. 268)

と、いうところまではよく分かるんだけど、だいたい本書はこれでおしまい。その先にもうちょっと行ってほしかった。著者は、ケインズとシュンペーターの考えを改めて見直すことが現代経済に関する理解につながると考えているようだが、特に新しい知見が示されているわけではない、退屈な一冊。ケインズ的考え方とシュンペーター的考え方を統合して、「需要創出型のイノベーション」を組み込んだ経済モデルを最近作ったらしいが、そしたらそれの解説をして欲しかった。

<だとすれば、シュンペーターがリスト・アップしたさまざまなイノベーションのなかでも、新しいモノを作り出すプロダクト・イノベーション、そして既存のモノについても新たな市場・販路を見つけ出すようなイノベーション、つまり「需要創出型のイノベーション(demand-creating innovation)」こそが資本主義経済を根底において支える最も重要な格だと言えるのではないか。そしてここにおいてケインズの経済学とシュンペーターの経済学は明確な接点を持つのではないか。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の青木正直教授と筆者は、こうした問題意識に基づき「需要創出型」のイノベーションをドライビング・フォースとする成長モデルを作った。この試みがどれだけ成功しているかは、他の人々が決めることだ。> (p. 270)

って、せっかく本買って読んでるんだからね、「他の人々」=読者を自分の試みがどれくらい成功しているか、説得してみてよ。しかし、需要を創出しないイノベーションってないよね。

いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ―有効需要とイノベーションの経済学

いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ―有効需要とイノベーションの経済学