ジャレド・ダイアモンド『文明崩壊』

文明崩壊 上: 滅亡と存続の命運を分けるもの (草思社文庫)

文明崩壊 上: 滅亡と存続の命運を分けるもの (草思社文庫)

著者の『銃・病原菌・鉄』は、ここ10年くらいで読んだ本の中で感動したものの一つだった。全部で三冊あげるとすると、『銃』と、水村美苗の『本格小説』、町田康の『告白』。番外で、阿部和重の『シンセミア』。どうでもいいが、これ全部、朝日新聞の「ゼロ年代の50冊」に入っていて、なかなか秀逸なランキングと思っていたが、最近読んだこれ(橋本健二『「格差」の戦後史』)はそれほどでもなかった。悪くないけど。朝日は朝日らしさをあまり出すとよくない。

その、『銃』の著者の、後続作品なので気になっていて、最近文庫になったので買ってみた。
しかし期待外れ。

『銃』の方は、なぜ欧州が歴史的に他を侵略する立場になり、その逆にはならなかったのか、というテーマを、ものすごくエキサイティングに解き明かしてくれた一冊だった。一方、『文明崩壊』の方は、なぜ優れた文明が、必ずしも侵略を原因とせずに滅びていったのか、というテーマを扱っており、テーマとしては似たところもあるが、作品の内容は全く異なる。『銃』は、先の問いに対して、地理的環境によって、人間の交易条件・交流体験は左右され、欧州は地理的に優越的な地位にあった、という主張をする。つまり、環境決定論的のようだが、人間の交流が主なテーマとなっており、読み物として深みがある。
『文明崩壊』の方は、主に環境破壊によって崩壊していった文明を扱っており、より環境決定論的な論調になっている。グリーンランドとか、イースター島とか、交易条件が悪いところで文明が(一時的に栄えたとしても)やがて衰退していくというのは『銃』の論旨からしても自明だと思うのだが。ということで、単に環境保護を訴える一冊になっている(それは大事な活動だと思うが)。それはおいておいて、モンタナ、ニューギニア、等々の自分に愛着のある地域の記述がやけに熱がこもっているのに対して、中国に冷たすぎるでしょ。

ということで、全体的に、好きなことを時間をかけて書いてみたけど、あまりに趣味に走ってしまって読者的にはありがたくない一冊。

文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)

文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)