書評:集中講義 日本の現代思想

集中講義! 日本の現代思想 ポストモダンとは何だったのか (NHKブックス)

集中講義! 日本の現代思想 ポストモダンとは何だったのか (NHKブックス)

すごーくまとめて言うと、戦後の日本では一時的に「思想」が社会的な影響を持つことがあったが、21世紀に入ってからは、思想対立の緊張感がなくなって、「思想戦」はできの悪いゲームみたいになってしまった、というストーリー。

<「弱肉強食の市場原理を貫徹して経済格差を拡大し、行き場のなくなった負け組を海外派兵の要員にすることを画策しつつ、そのための伏線として、愛国心・反ジェンダーフリー教育や監視社会を促進する右派勢力」という---かなり総花的に---膨張した”共通の敵”のイメージがしばしば、「左」寄りのメディアにも登場するようになった。これまでにない”最強の敵”に対して、これまでバラバラにゲリラ戦を戦ってきた「左の戦士」たちが再結集するという、黙示録かセカイ系のような話になりつつある。> (p. 237)

一部の論客は、現代の思想戦は、そういうゲームみたいなものだと分かりながら演じている気がすると思うし、今に至っては、それがあるべき態度だと思う。いくら高橋哲哉が書いても、藤岡信勝が叫んでも、日本の将来はあんまし変わんないよね。

しかし、本書を読むと、「思想」が日本で何よりも熱く語られていた時代があることが分かる。思想と行動が世の中を変えるとみんな思っていた。良い思想が世界をよりよくするとみんな思っていた。実際にそういうことは起こらなかったのだけど、そういう熱い空気を体験できなかったのはほんの少し残念な気もする。思想に代わるものってなんなのだろうか。