『集中講義 - アメリカ現代思想』

集中講義! アメリカ現代思想 リベラリズムの冒険 (NHKブックス)

集中講義! アメリカ現代思想 リベラリズムの冒険 (NHKブックス)

最近、こういう戦後歴史ものをよく読んでいる。外国に住んでいると、毎日毎日、日本とこちらの違いに気づく。当たり前のことだが、日本で当たり前のことが海外で当たり前でないということはよくある。そういう差異のかなりの部分は、特に戦後、各国がどんな歴史を歩んだかで説明できるのだと思う。

で、これはイタリアと関係ないんだけど、『集中講義 - 日本の現代思想』の続きとして出ていたので読んでみた。イタリアの解説本があればぜひ読みたいのだが。

一言でいうと、日本では戦後、「アメリカの軍事的庇護の下での平和」という大前提を右翼も左翼も共有することで、左翼はあまり現実性のない思想を微細に展開することができた。でもそういう崩れようのない前提が現実に崩れない限り革命なんて起こるはずがなかった。要は、日本の思想界に決定的に欠けていたのは現実主義ということだ。

一方、アメリカの思想はもともと現実主義的なものだ。本書は、ロールズの『正義論』を核にアメリカの民主主義・自由主義の展開を解説している。それはとてもプラクティカルで、ビジネスライクな論争で、民主主義的な集団的意思決定手続きと個々人の自由をどうやって両立したら、国がもっとよくなってみんながハッピーになるか、というところに焦点が絞られている。最近は、その「みんな」って誰なの、とかいうところで議論が錯綜しており、マイノリティ擁護に乗り出す人たちと、そういうのを無視しようとする人たちとが入り乱れているが、上に書いた基本線は守られている。

ということで、思想が現実とリンクしようとしているところがアメリカの強さだし、おもしろさである。change と言ったら、ほんとに何か変わりそうな気がするでしょう。日本は、おっとりしてますな。