ネグリ&ハート『マルチチュード』

マルチチュード 上 ~<帝国>時代の戦争と民主主義 (NHKブックス)

マルチチュード 上 ~<帝国>時代の戦争と民主主義 (NHKブックス)

  • 作者: アントニオ・ネグリ,マイケル・ハート,幾島幸子
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2005/10/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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マルチチュード 下 ~<帝国>時代の戦争と民主主義 (NHKブックス)

マルチチュード 下 ~<帝国>時代の戦争と民主主義 (NHKブックス)

  • 作者: アントニオ・ネグリ,マイケル・ハート,幾島幸子
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2005/10/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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いろいろなところで書名を見るので読んでみた。イタリアの人だし。しかし長い割に空疎というほかない。<今日の世界は果てしなく続くかと思われる紛争状態によって覆い尽くされており、民主主義の可能性はそれによって曇らされ、脅かされている。そこで本書はまず、こうした戦争状態の分析から始める必要がある。たしかに民主主義は近代を通じて、その国家的な形態においても局地的な形態においても、未完のプロジェクトであり続けてきた。> (上 p. 15)

うーん、すでに突っ込みたくなるが、まあこの前提は置いておこう。なんか危ない予感がする書き出しである。んで、なになに。<本書では、<帝国>の内部で成長する生きたオルタナティブ、すなわちマルチチュードに焦点を合わせる。思い切って単純化するなら、グローバリゼーションには二つの側面があるといえるだろう。ひとつには、<帝国>が、支配と恒常的な対立という新しいメカニズムをとおして秩序を維持する、階層構造と分裂に彩られたネットワークをグローバルに広げていくという側面である。だがグローバリゼーションには、国境や大陸を超えた新しい協働と協調の回路を想像し、無数の出会いを生み出すという、もうひとつの側面もある。> (上 p. 19)

筆者は、こうやって出会っていく「マルチチュード」(=マスでも人民でもなく、「共」性をまとう謎の集団)が<帝国>へのオルタナティブになるという。んで、いろいろな国際会議の周辺に出没する人たちのことなんかに触れて、彼らこそマルチチュードの力の顕現だとか、そんなとぼけたことを書いている。そんなの、エネルギーと暇と金が余っている先進国のにいちゃん・ねえちゃんの集まりで、そんな人達では「果てしなく続くと思われる紛争状態」は打開できないっちゅうの。みんな彼らくらいエネルギーと金を暇が余って入れば別だけどさ。もう少し現実をみてくれ。星真一のショート・ショートの方がまだ現実的だ。下巻はもう読んでいられないくらいくらい夢見がち。例えばこんな箇所。<今日の人びとにとって、愛を政治的概念として理解することなど思いも及ばないだろう。だが、まさに愛の概念こそ、私たちがマルチチュードの構成的権力を理解するために必要なのである。近代の愛の概念はほとんどといっていいほどブルジョワのカップルや、核家族という息の詰まるような閉鎖空間に限定されている。愛はあくまでも私的な事柄になってしまった。私たちは近代以前の伝統に共通して見られる公共的で政治的な愛の概念を回復しなくてはならない。> (下 p. 254)

…本気でしょうか。
現実認識がやたら厳しい一方、解決策が、こんなゆるいことでいいんだろか。「愛が足りない」で済んだら警察も教皇も哲学者もいらないっちゅうの。もう少し現実を見て下さい。