バートン・ビッグス『ヘッジファンドの懲りない人たち』

ヘッジファンドの懲りない人たち(日経ビジネス人文庫)

ヘッジファンドの懲りない人たち(日経ビジネス人文庫)

著者は元モルガンスタンレーの運用部門トップで、辞めた後自分のファンドを作って成功しているお方。ヘッジファンドって何をやっているのかよく分からなかったけど、よく分かった。(当たり前だが)ヘッジをかけながら投資を運用するファンドということで、投資対象は何でもありなのね。PEファンド、インフラファンドなんかは仕事で多少ふれあいそうだけど、なかなか接点がなさそうな分野ではありますが、世界中の知恵とガッツのある人が集まっていて(今でもそうなのだろうか)、興味深い世界ではあります。それにこの人、文章もうまい。好きだったのはこの個所。<カンファレンス(※投資家とファンドマネージャがふれあう場)にはいろいろな部族が現れる。まずはプロフェッショナルで、大手ファンド・オブ・ファンズ(FOF)や財団法人、寄付基金、年金基金からやってきた人たちだ。彼らは退屈しきった冷笑的なまなざしとその気のない握手が特徴である。純粋に仕事でカンファレンスに来ているのであり、馬の目利きみたいなことが彼らの仕事なのだ。アメリカ人の男だとスーツを着ており、腋には大汗をかいている。女だと背が高くて細くて質素だ。対照的に、ロンドンの大手FOFから来た名門貴族の人たちはストライプの入った青シャツ、ただし襟は白、苗字とあごは二つに割れている。> (p. 95)

なんかつぼだった。

★★★★☆

[メモ]
その1: アメリカのPEのリターン。出所はトムソン。
1982年から2002年の20年で、全てのファンドのIRRは13.7%。ただし、リターンは逓減傾向で、1982年から92年までが16.2%。93年から02年では8.2%。99年から04年の5年で計算するとたったの1.6%。
巨額の資金が流れ込んでリターンが低下した。なお、ファンドは小規模買収ファンドほどリターンが大きい(当然流動性も低いが)。(pp.255-6)

その2: KKRのリターン。1976-2004年までの間に10個のファンドを作り、210億ドルを調達して93社を買収した。1090億ドルを借り入れているので、レバレッジは5倍。総額1300億ドル(10兆円以上!!)を投資したことになる。利益は347億ドル、自己資本利益率は165%、総資産収益率は27%。レバレッジがやはり利いている。
打率は、62社が成功、22社が失敗、9社が引き分け。

著者によれば、「目覚ましくもなんともない!株式のアクティブ運用だと、そういう打率の人はそう長くは生き延びられない。」とのこと。すごい打率だと思ったんだけど。。

その3: バリュー投資戦略(割安株を買って高くなるのを待つ戦略)を掲げていて成功している10社の成績。(もともとはウォーレン・バフェットが講演で参照したデータ)。<10社とも非常に優れた成績を出しており、主要な株価指数を長期で大きく上回るリターンを実現している。たとえば、パシフィック・パートナーズは、19年間の平均で32.9%のそうリターン---顧客が得たリターンで見ても23.6%---を上げている。対するS&P500は7.9%だった。トウィーディ・ブランの顧客は936%の累積リターンを得たのに対し、S&Pは238.5%だった。バフェット自身の成績も、もちろん見ただけで納得できる証拠になっている。
しかし、驚くべき発見は、これらのスーパースターたちは皆、バフェット自身を除いて、S&P500に勝った年は全調査期間中30-40%ほどにすぎなかったという点だ。[.......] しかし、悪い年の負け方は(いつもというwけではないが)一般的に小さく、勝った年の勝ち方の方が大きく、ケースによっては大変な勝ち方をしていた。負けた年の多くは株価指数が大きく上昇した年だった。
さらに、二つの例外を除いて、バフェット自身が言及した偉大な投資家は皆、長く負け続けた期間(三年連続、または継続する四年中三年と定義されている)があった。>