水道橋博士『藝人春秋』

藝人春秋

藝人春秋

2012年12月刊、2013年1月読了。

町山智浩のブログで紹介されていたのがおもしろそうだったので購入。水道橋博士が書き溜めた周辺人物についてのエッセイを一冊にまとめたもの。

帯では「報告文学としての傑作であり、博士の、私小説としての大傑作」などとリリー・フランキーが評していたりするが、そこまでではない。題材の選び方は面白い(ので読む価値はある)が、エッセイとしてのまとめ方は取り立ててすごい迫力とか胆力を感じるものではない。もう少し毒舌調・いじり調子なのを期待していたのだが、後輩芸人(三又又三)とかを除いてはそこまでではなく小奇麗にまとめてしまっていて、遠慮がみられる。仕方がないのだろうけどね。

取り上げられている人物は、そのまんま東、石倉三郎、草野仁、古館伊知郎、三又又三、堀江貴文、湯浅卓、苫米地英人、テリー伊藤、ポール牧、甲本ヒロト、爆笑問題、稲川淳二、松本人志と北野武(セットで一章)。結構おもしろかったのは、松本と北野の一章(松本の対抗意識が分かる)とテリー伊藤。テリーは本当におかしな人だね。

元気が出るテレビの頃のエピソード。<ある日の会議室---。
見習いを含めて20人近い放送作家が書き綴った、まるで電話帳の如く分厚くなった一週分の企画書の束を、まさに斜め読み、猛スピードで目を通すとテリーさんが頭をあげた。先刻から続く貧乏揺すりからしても怒っているのは間違いない。
「あのさぁあ……」
誰に向けて言っているのか分からず会議室に緊張が走る。
そして、言葉は矛盾するが、その視線の先にはない一人の新人作家を睨みつけると、
「オマエよぉ、大学時代よぉ、ナニ専攻してたんだよ!」
「文学部ですけど……」
「ぶんがくぶぅうー!」もう声が裏返っている。>

これだけでもなんかすごいのだが、この後がふるっている。<「な〜にぃが文学部だよぉ!だからお前の企画書には漢字が多いんだよぉ!ええぇ?わかってんのかぁあああ!!」
感情の起伏が激しいので語尾は常に怒鳴っている。
「か、漢字ですか?」
言われている方は意味が分からない。
「あのさぁぁ、テレビの企画書ってひらがなで書くもんなんだよぉお!」
「ひらがな?」
「テレビってさぁ、子供から大人まで観てるんだからさぁ、発想の時から頭んなかで漢字で書いてたら通じないでしょ?」
今後は噛んで含めるように続ける。
「いいぃ?オマエはねぇ、これから文学部の悪い癖をさぁ、直さなきゃいけないなぁ……」
「はい……」
「よし、明日からぁ、ホモになれ!」
「はぁ?僕がホモになるんですか?」
会議室は笑いに包まれる。もちろん、それが冗談だと思ったからだ。
しかし、テリーさんは真顔で、
「いや、みんな笑ってっけどさぁあ、オレの知っている浅草のホモサウナがあるからよぉ、明日から3日間泊まってこいよぉ。それでよぉ、ちゃんとケツ、ホラれるまで帰ってくんなよ!どうだぁああ?」
「は、はい……分かりました」
当時の縦社会の厳命は絶対だ。>
(pp. 198-200)

ものすごくむちゃくちゃな場面だが、なんか、「ありそう」と思ってしまうのは、やはり筆者の筆力というより、当然であるが、元のキャラがすごいからだろう。繰り返しだが、エッセイとしてはこじんまりとまとまっているものの、現代の芸能界を彩る奇人変人たちの言動の一端が覗ける貴重な資料ではある。

キャラ描写とは若干異なるのだが、爆笑問題といじめについてまとめた章と、稲川淳二とその家族のエピソードについてまとめらた章については、エッセイとしても秀逸なできだと思う。これがなければ星三つだが、この二章で星四つ。

★★★★☆