デビッド・キャリー&ジョン・E・モリス『ブラックストーン』

ブラックストーン

ブラックストーン

2011年11月刊、2012年12月読了。
本屋で平積みになっている頃から気になっていたのをようやく読んだ。もっと早く読んでおけばよかった。プライベート・エクイティの雄、ブラックストーン創業者のスティーブ・シュワルツマンの足跡を追いながら、業界の浮沈を描き切っている。この業界、外から見ていると一体何をやっているのかよく分からないのだが(ナビスコとか高く買っちゃってどうするの?とか)、この本を読んでよーく分かった。日本にも本当にこういう業態が必要だと思う。(あるのだが、伸び悩んでいるのはなぜなのかまだよく分からない)。

KKR、ドレクセルらの名前で記憶される70年代後半から80年代にかけての時期、業界はまだ黎明期で、集まってくる資金は少なかった。76年にKKRが立ち上げたファンドは2500万ドルの規模だった。このファンドは成功に終わり、1980年には3億5700万ドルが集まった。これでも驚くべき成長だが、数年後、1987年にはなんと61億ドルが集まった。もちろん1980年代の、KKRのファンドの驚くべきリターンが原因である。1984年のKKRのファンドに出資した投資家は、元手の6倍を手に入れ、1986年のファンドに至っては元手の13倍のリターンを得ている。90年代には業界全体が凋落を経験する時期もあったが、2002年には世界全体の企業買収の10%をプライベート・エクイティが主導で行っている。2004年には買収市場におけるPEのシェアは、アメリカで13%、ヨーロッパで16%にのぼっている。
PEの戦略は、言ってみれば非常に単純で(だから魅力がある)、潜在的に価値を産み出す能力があるが、主に経営の要因で成長を実現できていない企業を、安値で、レバレッジを効かせて、買って、負債を返済して数年で売却するというものだ。で、それどうやってやるの?というところにはいろいろ「伝説」があって、要は首を切るだけだとか、資産のばら売りにすぎないとか、そういう記事を目にすることも多い気もする。しかし、やっていることは結構地道である。例えば、ブラックストーンが手掛けた超大型の不動産投資(EOP社)の買収検討の場面が印象的であった。2006年11月、ブラックストーンは公開資料をもとに、EOP社に対して総額356億ドルの買収提案を仕掛ける。その後、EOPと秘密保持契約を締結し、ブラックストーンは買収対象の詳細検討に入った。<ブラックストーンは数十人のアナリストと社外の弁護士を動員し、猛スピードでデータの分析を進めた。その結果、コーエンとキャプランがEOPの株主向けの公式な報告書から導き出した仮説が正しかったことが証明される。この取引は成立する。六日後の11月13日、ブラックストーンは正式に一株47.50ドルの買収提案を提示した。EOPはそれに一ドルを上乗せすることを求めた。買収価格は360億ドルに膨らんだが、ブラックストーンはまもなくそれを受け入れた。> (pp. 331-2)

3兆円超の正式提案を作るのに、六日でやっているんですね、この人たち。とても信じられない。そういう速度で、もちろん、買収後もいろいろな手を打って、企業の・資産の改善を行うのである。ダイナミックとしか言いようがない。ちなみに、ブラックストーンは、レバレッジを効かせて結局35億ドル程度でEOPを買収し、これを70億ドル以上で売り切った。一案件で3000億円以上の利益である。

ところで、PEが雇用を削減するという主張に対しては、もろもろのアカデミックな反証があがっているそうだ。4500のPEの買収案件を調査した結果、短期的には雇用が減る傾向があるが、長期的には減少した分を上回る雇用を、PEによる投資が産み出すことが明らかになったそうだ(p. 411)。こういう結果もおもしろいし、こういうところまで紹介してくれる、かゆいところに手が届く一冊。

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