田中一昭 『道路公団改革 偽りの民営化』

偽りの民営化―道路公団改革

偽りの民営化―道路公団改革

2004年2月刊。2012年読了。
著者は2002年に発足した道路公団民営化推進委員会・委員長代理を務めた。元総務庁で国鉄民営化の事務方を務めた実績が買われた。

行政改革実務の第一人者らしいが、これを書いてもすごいところが一切分からなくてがっかりした。文章も稚拙だし、言っていることは子どもの駄々と同じである。要するに、猪瀬委員が委員会を無茶苦茶にしてしまったので、小泉親分のところにも文句を言いに行ったけど、親分もあんまり民営化に身が入っていなくてぼくちんの言うことを聞いてくれませんでした、ということ。そういう愚痴が250ページくらいずっと書いてあるだけの一冊。利害関係者がたくさんいることは分かっているはずで、そういうのを調整するのが一番難しいとか思わないのかな。ぼくちんの言うことが正解で通らないのがそんなに不満かな。猪瀬委員のことを「ボクボク作家」みたいな書き方でけなしているが、両者の著作を読む限りこの著者の方が「ボクボク」的なキャラに感じる。

上下分離はけしからんとかなり憤っていて、結局、現在の分離方法は問題があるのかもしれないが、彼の言っていることはよく分からない。曰く:<わたしの考えでは、こうした「上下分離」方式には大きな問題がある。
会社の経営を安定させるための重要な条件の一つは、きちんと資産を持つことにある。そうすれば、自分が持っている資産を自分の判断によって事業のために役立てることができる。これによってはじめて経営の自立性・自主性が確保できる。
そもそも、新会社は道路保有機構から道路を借りない限り、事業を展開できないことになり、とてもではないが一人前の会社とはいえない。このように著しく経営の自由度を欠く会社を、誰も優良会社とは言わないだろう。> (p. 102)

資産はなるべく圧縮して、B/Sを軽くするというのは、少しでも経営指標をかじったことがある人ならよく理解する話であって、社会人一年生でも知っている。資産を持つ・持たないが問題ではなく、民営化案に関する議論に関しては、資産を持つ・持たないの選択権があるかどうか、特に新規資産取得に関する選択権があるかどうか、が問題なのである。別に、民営化会社が自分で資産を持たなくても、新規に道路を建設するときに、「それ使いたくないですから」と言えればよいのである。道路を借りない限り事業が展開できなくても何の問題もない。借りた資産で事業を行っている会社はたくさんある。航空機の多くがリースだと言うことを知っているのだろうか。

他にも突っ込みどころは満載。拓殖大学の教授だったらしいが(刊行当時、今は知らない)この人の講義を受けていた学生はかわいそうだと思う。