マイケル・ブルックス著、楡井浩一訳、『まだ科学で解けない13の謎』

まだ科学で解けない13の謎

まだ科学で解けない13の謎

以下、現代科学でよく分かっていない、「スキャンダラス」なテーマについて解説した良書。テーマは以下の通り。五章以下はややだらだらした感があるが、一章から四章は謎に取りつかれた学者の執念を丹念に描いていて本当に読み物としてもよい。
科学者が宇宙の謎を解明してきたのかを追った、サイモン・シンの『宇宙創成』とセットで読むとおもしろいかも。

一章)暗黒物質と暗黒エネルギー:宇宙にはよく分からない物質とエネルギーで満ちていると仮定しないと、さまざまな観測結果の説明がつかない。
二章)パイオニア変則事象:1970年代に打ち上げられた宇宙探査機パイオニア号が、現在の物理学の理論で予測される軌道からわずかにずれて飛んでいる。誰もこのずれの原因を説明できない。ニュートンの力学理論を修正する必要があると主張する学者もいる。
三章)物理定数の不定:物理学の基本定数の一つ、「微細構造定数α」は120億年前はほんの少し今と違っていた、かもしれない。定数が定まっていなということがありえるのかという議論が起こっている。
四章)常温核融合:「観測された」と主張した学者は干されているが、それでもパラジウム合金で起こった温度上昇の謎をまだ誰もきちんと説明できない。

以下はおまけのようなもの。

五章)生命とは何か:お決まりの問いに関して。
六章)火星の生命探査:火星探査で採取した岩石に実は生体反応があったのではないかという議論。結論として、過去の火星には原始的な生命がいたことは隕石から確認が取れている。しかし今の火星では確認が取れていない。
七章)宇宙からの信号:一度きり、宇宙から、明らかに知的生命体が発したものとしか考えられない信号がオハイオ州で観測された。誰もこの信号の謎を解明できていない。
八章)巨大ウイルス:イギリスの地方で発見された、通常のウイルスの30倍の大きさがある耳ウイルスは、真核生物の発生の鍵を握る存在かもしれない。
九章)死:なぜ細胞が死に至るのか実はまだよく分かっていない。
十章)セックス:有性生殖は、進化上不利なことだらけで、なぜこの生殖法が現在まで残っているのか分からない。ごりごりのダーウィニストのドーキンスも謎だと言っている。
十一章)自由意思:実はないらしい、というのが最近のトレンド。
十二章)プラシーボ効果:有名な、偽薬でも病気が治ってしまうという効果について。「ある」とされていたプラシーボ効果は実はないのだとか、「生体化学反応」というのできちんと説明できるという立場、など。
十三章)ホメオパシー治療:ハチに刺されたら、ハチの毒性分を何兆分の一にも薄めた薬を飲んで治す(これくらい希釈すると元の成分は処方一回分の量に全く入っていない)とかいう、あほみたいな治療がある。この治療法を用いる医師は、フランス、オランダでは40%、イギリスで37%、ドイツで20%に上る。これは実は本当に効果があるかもしれないという実験結果がありまことにスキャンダラスである。

宇宙創成(上) (新潮文庫)

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