村山斉『宇宙になぜ我々が存在するのか』

宇宙になぜ我々が存在するのか (ブルーバックス)

宇宙になぜ我々が存在するのか (ブルーバックス)

なぜかアマゾンでお薦めされて購入。
ニュートリノを中心とする素粒子の世界から宇宙の世界につなげて、ビッグバン理論、インフレーション理論とさくっと語ってくれていている。
メモとして、まとめの箇所を引用しておく。

最後に、今の宇宙論でわかっている有望な説をつなぎ合わせて宇宙のはじまりから現在までを振り返っていこうと思います。
まず、誕生直後の宇宙は原子よりも小さいものでした。このときの宇宙は私たちが認識できる四次元よりもたくさんの次元があったのかもしれません。ただ、このとき宇宙が小さく丸まっていたことにより四次元時空の宇宙になったのではないかともいわれています。
そして、すぐにインフレーションが起きて、小さくてクシャクシャと丸まっていた宇宙が、アイロンでしわを伸ばすように平らになっていきました。ところがしわを伸ばしていっても、完全に平らになってしまわないところが宇宙のおもしろいところです。しわを伸ばすと同時に、不確定性関係の影響で目に見えないような小さなしわがよってきます。この時点で宇宙はやっと三ミリメートルになりました。
インフレーションによって宇宙は一気に大きくなりました。三ミリメートルという数字だけど見ると、とても小さいと思うかもしれませんが、誕生直後の宇宙は10(-35乗)メートルともいわれています。そこから三ミリメートルと、三〇桁以上も急激に大きくなっているのです。
インフレーションで目に見える程度の大きさになった宇宙で、ビッグバンが起こり宇宙のもっていたエネルギーが熱や光に変化しました。宇宙は一気に熱くなり、ゆっくりと大きくなっていきました。そして、宇宙が三キロメートルぐらいの大きさになったときに、粒子と反粒子のバランスが崩れたのです。真空の世界で粒子と反粒子は対になってでき、対応する粒子と反粒子がぶつかると消滅してエネルギーになります。このとき、粒子の生成と消滅が繰り返しおこなわれたと考えられます。
でも、このまま対生成と対消滅が繰り返されただけでは、粒子と反粒子が同じ数だけできては消えての繰り返しになります。私たちがこの宇宙に存在するためには、どこかのタイミングで粒子と反粒子の数がずれなければいけません。このとき、大きなはたらきをしたのがニュートリノだったのです。素粒子には右巻きのものと左巻きのものがあるはずですが、ニュートリノの場合は左巻きのものしか観測されません。もしかしたら観測されない右巻きのニュートリノが反ニュートリノである可能性があります。そうであればニュートリノと反ニュートリノは入れ替わるかもしれないのです。このようなしくみが今後わかってくれば、どうして宇宙に粒子だけが残った(物質が残って反物質が消えた)のか、その理由がわかるかもしれません。
とにかく、宇宙に同じ数だけできた粒子と反粒子は、どこかで反粒子が粒子に変化したと考えられています。何者かが一〇億分の一個だけ反粒子を粒子に変えたことで、九億九九九九個の(※ママ)粒子は反粒子とぶつかって消滅しても、粒子は二個生き残り、星や銀河、そして私たちへとつながっていくことになるのです。
さらに宇宙が一億キロメートルまで大きくなったところで、ヒッグス粒子が凍りつきます。ちょうど水蒸気が水や氷になったように宇宙がギュッと凍りついてしまいました。そのおかげで素粒子の世界に秩序が生まれ、多くの素粒子に質量が与えられるようになりました。このようにしてはじまった宇宙は、ゆっくりと膨張しているので、だんだんと冷えていきます。ただ、まだ熱いので原子核や電子がプラズマ状態で空間を飛び交っている騒がしい状態が続きます。この状態では光はたくさんの原子核や電子たちに遮られてしまいますので、まっすぐ飛ぶことがdきません。
暗黒物質は、光子やクォークなどの他の素粒子と同じようにありましたが、互いに出合ってはほぼ消滅してしまいました。ですが宇宙が一〇〇億キロメートルくらいになると、もう互いに出合うこともできないくらい薄まってしまい、消滅が止まり、生き残る数が決まります。これが今残っている暗黒物質だと考えられています。
さらに宇宙が三〇〇〇キロメートルくらいになると、クォークが強い力で閉じ込められて、陽子や中性子になります。そして三〇光年くらいの大きさになるまでにくっついて、中性子はすべてヘリウムの原子核に組み入れられます。しかしそれ以上大きな原子はまだほとんどできていません。
ようやく宇宙が落ち着いてくるのが誕生から約三十八万年くらい、宇宙の大きさが一〇〇〇万光年ほどになります。宇宙が冷えてきたといっても、まだ三〇〇〇度Cもあるのですが、原子核と電子がくっついて原子ができるようになります。これまで宇宙空間を飛び回っていたプラズマが原子になることで、だんだんと集まるようになります。宇宙にはインフレーションのときに細かいしわができていました。そのしわのエネルギーの濃い場所には実は暗黒物質が集まっていたので、その暗黒物質の重力に引き寄せられて原子も集まるようになります。これがだんだんと星になり、星がたくさん集まって銀河を作るようになります。 (pp. 173-177)

こういう話、よく分からないわりに好きで何冊も読んでいて、それでもよく分からないのだが、このまとめは、かなり明快でありがたい。ものすごいスケールの話をさくっとまとめてくれている。