呉智英『封建主義者かく語りき』

封建主義者かく語りき (双葉文庫)

封建主義者かく語りき (双葉文庫)

1981年刊。
30年以上前の本だが、今読んでも全く違和感ない。「民主主義」という便利ワード(思考停止ワード)を使っていろいろな論者があほな主張を繰り返し、日本をだめにしていった、という主張。

呉智英はずっと、「すべからく」の誤用を指摘し続けているが、理由はこれを読むまで知らなかった。細かい人なのかと思っていた(細かいのだとは思うが)。実際には、こういう誤用は「民主主義=ファシズム=スターリニズム」の産む悪弊なのだという。(ファシズムが民主主義から生まれたという点についてはかなり紙数を割いて呉は論じている)。

なぜ「すべからく」が誤用されるのか。呉によれば、こういう誤用する論者は、気取った賢く見られたい左右の批評家たち(川本三郎、上野昂志、鈴木志郎康、唐十郎、服部平治、宮本盛太郎、岸田秀の名を例示している)であって、彼らは、「叡知の道を歩むことなく、そのくせ、裏口からでも叡知の王国に入りたいという姑息な上昇志向だけは人一倍強い」、ということになる。そしてそういう志向は、「個」を重視する(と言われる)だめな民主主義が産み出したものだという。面白い主張だと思う。「気取った表現で四流五流をたぶらかしたいという二流三流が跋扈することになった」というようなひどい書きぶりもものすごく面白い。

ところで、今(2013年5月)に話題の憲法に関しても以下のようなことを述べている。

現行憲法がアメリカの押しつけだというのなら、開国はどうなのか。ペリーの黒船軍団は、現代で言えば、各装備の空母・戦艦の大艦隊である。これで軍事的圧力をかけ、開国をせまり、それに続いて明治維新までもたらしたのだ。
開国・倒幕・明治維新は、たかが明治憲法の押しつけどころではない、もっと巨大なおしつけである。何故、これに反対しないのか。アメリカの押しつけによる開国・倒幕・維新反対。明治以降の政体打倒! 江戸幕府再興! と、何故言わないのか。----と問い詰めることができる。


仰るとおりですね。