斎藤貴男 『ルポ 改憲潮流』

ルポ 改憲潮流 (岩波新書)

ルポ 改憲潮流 (岩波新書)

(昔書いたアマゾンに書いたレビューの転載)。

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改憲を論じる上ではいろいろな切り口がある。すごくざっくり言うと、九条は平和精神から死守しなければならない、という精神論と、アメリカ主導の国際社会で責任を全うせねばならない、という現実論がせめぎあっている。本書は、あまりそういう(泥沼になりかねない)論点から一歩離れ、監視社会の成立(ビラを撒いただけで逮捕)、ジャーナリズムの機能停止(監視社会を煽るのみ)、無責任極まりない日本の政治状況(二世議員が多いせいか政治家が当事者意識を欠いている)などの背景を丹念に拾ってつづっているところが優れている。

読んでいて一番腹がたったのは、改憲派の政治家の考え方について述べた箇所で引用されている伊藤信太郎衆議院議員の発言の引用。

<[…] 多くの国民は自由を求めているようでいながら、実は自由から逃れたいと密かに思っている。この国の国民はこういうふうにものを考えれば幸せになれるんですよというようなことをおおまかな国のなかで規定して欲しいというのは、潜在的にマジョリティの国民が持っている願望ではないか。>(本書 p. 54、自民党憲法調査会のなかでの発言から)

こういう人物に幸せを規定してもらいたくない。