小野善康『成熟社会の経済学』

成熟社会の経済学――長期不況をどう克服するか (岩波新書)

成熟社会の経済学――長期不況をどう克服するか (岩波新書)

反リフレ派の軸の一つを作っている方ですね。菅直人のブレーンだったという。ひとつどんな主張なのかと思って、平積みになっていたのを購入。初版は2012年1月。

ものすごーく単純化して言うと、「成熟社会」においては、ケインズ的処方箋やリフレ派の処方箋は役に立たず、新しい考え方に基づいた「増税と公共事業」が必要だという主張。以下、メモ的に引用:

「成熟社会とは?」

(過去の経済学が積み重ねてきた議論に触れたうえで) しかし、伝統的な経済学の仮定が現実的でないならば、そのあとの証明がいくら厳密であっても、企業の効率化や市場原理の貫徹がいいとは言えなくなります。
成熟社会の経済学では、その非現実性が貨幣の役割を軽視することからきていると考えます。生産力がまだ十分でなかった発展途上社会ではそれも現実的でしたが、物やサービスが満ち足りた成熟社会では、お金への欲望が相対的に強まってくる。そのとき、これまでの経済学が否定している長期不況が生まれてきます。そうであれば個別企業や政府の効率化を行っても、人々が働けなくなるだけで、効用は高まりません。(p. 40)

はたしてそうだろうか。「お金への欲望」も相対的なもので、「今はデフレだから」と言って日本人が買い控えをしていただけでは。アメリカでの消費の旺盛さはなんなのか。アメリカは「成熟社会」でないのか(そうだ、と言われるとなかなかおもしろいが)。

「なぜ公共事業か? どうやって雇用を確保するのか?」

民間だけでは労働力を十分に使ってくれない。それを放置して何もしなければ、まるまる労働力が無駄になるから、経済全体で考えれば効率は最悪だ。それなら、たとえ採算が取れなくても政府が雇用を作った方がよい。(…)
こうやって政府が雇用を作れば、雇用不安やデフレが減って消費意欲を刺激するから、経済はさらに拡大します。そのとき雇用を作る場所が、介護や保育、観光や健康など、国民生活の質を上げる分野なら、経済の拡大とは別に、国民はそれらの便益を直接享受できます。さらに、環境や新エネルギーなどの新分野なら、それこそ本当に将来の成長分野になるかもしれません。これが成熟社会で必要な成長戦略です。(pp. 89-90)

国主導で成長戦略を作ると言うのは無理があるようには思うが、公共事業についてはそうなんだろう。

「なぜ増税か?」

結局、国債発行とは、増税という政治的には難しいことを先延ばしにするだけのために、すでに発行されている国債を信用不安に陥れる危険性のある政策です。だからこそ、巨額の国債が積み上がって信用維持が懸念されているいまは、むしろ増税の方がいいのです。そもそも物が売れず労働力も余った状態を放置していれば、人びとはデフレと雇用不安に悩まされ、国債や貨幣などの金融資産を増やしても、物やサービスの購入には向かいません。それなら、国債も貨幣の場合と同様に、現在の信用を維持することに重点をおくべきです。その上で、税金で集めた資金をもとに財政支出によって需要を作り、雇用を増やしてデフレと雇用不安を取り除けば、消費を刺激することができます。(p. 121)

ここ、一番重要なところだと思うのだけど、増税⇒財政支出⇒需要創出/雇用増大⇒デフレ脱却⇒消費刺激、という経路を想定しているのだけれども、増税したら税金払う分消費は減らされる可能性があるので、「需要創出」にはあまりならないのではないかと。やっぱり、デフレ脱却を重視して、デフレ脱却⇒需要創出、というルートを想定する方が正しいという気はする。

これを読んでよく分かったが、基本的に(当たり前かもしれないが)、デフレ/失業/消費低迷/国債の積み上がり、が解決する課題であるという認識はリフレ派と共通している。実はこういう課題認識を共有せず、「デフレはよい」という人もいなくはない。

で、小野理論は、まず、公共投資を通じた失業の解消からやろう、国債はもう出せないので増税してやろう、とする。しかし、こういうルートで経済が回復するとは到底思えないんだよね。いろいろ読む中では、やっぱり岩田規久男や片岡剛士の本により説得力があって、デフレ(と円高!!)が経済低迷の最大の原因なのだと思う。そこに全然焦点をあてていない解決策はやはりよろしくないのではないかと。